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音声ガイド本文
むかし、和尚様がお供の小僧を一人連れて、長崎の中でも一際にぎやかな浜町を通っていました。すると向こうの方から物々しい大名行列がやってきて、足軽が道をあけるようふれ歩いていました。まちの人はすべて道をあけましたが、和尚様は気にせず突っ立ったままです。お供の小僧が袖を引いても一向にかまわず、ちょうど大名籠が目の前を通るときに、声をかけました。「治郎兵衞、治郎兵衞……」しかし、籠の中の大名様は脇目も振らず、そのまま行列は去っていきました。「これは困った。ほんとの大名行列だったかもしれない。」と和尚様はすっかり青ざめました。ところがその晩、和尚様の部屋に、治郎兵衞狐がひょっこりとやってきました。「昼間は上手に化けていたと思ったのですが、どうしてわかったのですか。」治郎兵衞狐のその言葉を聞いて、和尚様はほっと胸を撫で下ろしました。「あなたは籠から太い尻尾を出していたじゃないですか。」治郎兵衞狐は頭をかきながら、「どうしたらうまく化けられるでしょうか。」と和尚様に聞きました。「私の持つ”化けずきん”をかぶればよいでしょう。あなたの”化け玉”と取り替えるなら、貸してあげましょう。」和尚様はもっともらしく言いました。治郎兵衞狐は喜んで自分の“化け玉”と、和尚様の“化けずきん”を交換しました。さて、翌日、治郎兵衞狐は意気揚々と”化けずきん”をかぶって、浜町に出かけて行きました。道行く人は「狐だぁー!」、「狐がずきんをかぶって歩いている!」と驚き面白がって、ものを投げたり、棒きれを持って追いかけてきましたので、これには治郎兵衞狐もたまりません。命からがら山へと帰って行きました。さすがの治郎兵衞狐もイタズラにこりて、二度とまちに姿を現しませんでした。
参考 / 吉松祐一『[新版]日本の民話48 長崎の民話』未來社、近藤祐一『長崎の昔ばなし第一集』竹下隆文堂
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