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音声ガイド本文
むかし、唐人屋敷の近くに、伊勢屋という欲深い主人が住んでいました。ある日、日ごろから仲良くしていた唐人屋敷の阿茶さんが、「一年ほど、中国に帰ってきます」と別れの挨拶にやってきました。帰り際、阿茶さんは土蔵の石垣に、青く光る石を見つけて、神妙に眺めたあと、「主人よ、主人。この青い石を売ってください」と頼みました。「いいですよ。ただ今は石垣の中にありますので、また長崎にきたときにあげましょう」と主人は答えました。しかし、阿茶さんは「石垣から取り出すお金は出しますので、今売ってください」としつこく頼みます。さては大層な値打ちものではないかと主人は疑い、阿茶さんが「五百両出す」と言っても、首を縦に振りませんでした。そうして、阿茶さんは中国へ帰ってしまいました。一方、主人は職人を呼び、青い石を割らせることにしました。石を割ると、途端に水がこぼれ出して、一匹の金魚が飛び出しました。あっけに取られていると、金魚はのたうって死んでしまいました。「こりゃ、大金を儲け損なった」と主人は肝を潰し、三日三晩、食事も喉を通りませんでした。翌年、阿茶さんは約束通りやってきました。主人が正直に話すと、阿茶さんはポロポロと涙をこぼしました。「あの石は、魚石と呼ばれる吉兆の宝です。私も生まれて初めて見ました。石を水が見えるまで薄く磨いて、金魚が泳ぐ姿を朝晩見続けると、心の曇りがなくなり、長寿をもたらすと伝えられています。国王へ献上できれば、私の一生も心配がないと思い、今回は三千両用意していました。必ず買うつもりでしたが、もう仕方ありません。私も運がありませんでした」と言って、風呂敷の中の三千両を広げました。主人は頭が真っ白になり、阿茶さんも魂が抜けたようになって、寂しそうに中国に帰ってしまったそうです。
参考 / 吉松祐一『[新版]日本の民話48 長崎の民話』未來社、近藤祐一『長崎の昔ばなし第一集』竹下隆文堂
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