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音声ガイド本文
むかし、ロソン国の貧乏な大工の子で、丸屋という利口な娘がいました。「どうしたら人々の魂を救えるのか。」と丸屋はいつも考えていました。あるとき、天のお告げを聞いて、「私は一生お嫁に行かず、修行しよう。」と誓いました。ところがある日、丸屋の美しい姿がロソンの王様の目にとまって、「私の妃になってくれないか。」と所望されました。「私には大願があるので、お嫁にはいけません。」と丸屋はキッパリと断って、一つの奇跡を見せました。丸屋が天に向かい静かに祈ると、六月だというのに雪がチラチラと降り出し、あっという間に積もってしまいました。皆が呆然としている間に、天から花車が降りてきて、丸屋は天へと昇りました。雪が降り止み、皆が正気に戻ったときには、丸屋の姿はどこにもありませんでした。それから王様は丸屋に想い焦がれ、とうとう死んでしまいました。天に昇った丸屋は、天帝様から「雪のサンタ・マルヤ」という称号をもらい、もう一度、この世で暮らすことになりました。あるとき、天の御使いから「あなたの清い身体を貸してください。」と告げられ、丸屋は「はい。」と頷きました。二月のある夕暮れ頃、大天使様は蝶の御姿に身を変えて丸屋の口に飛び込むと、丸屋はたちまち子を宿しました。その内、親に知れてしまい、丸屋は家を追い出されました。さまよった果てにベレン国に行き着いて、牛小屋の中で赤ん坊を産み落としました。牛小屋の牛や馬は息を吐きかけて赤ん坊をあたため、牛小屋の持ち主は囲炉裏の火で丸屋と赤ん坊をもてなしました。この赤ん坊が、キリスト様です。キリスト様が大きく育った後、丸屋は天に昇って、天帝様の仲立ちで焦がれ死んだロソンの王様とめでたく夫婦になりました。このお話は、長崎の潜伏キリシタンの聖書『天地始之事』として信仰とともに伝承されています。
参考 / 吉松祐一『[新版]日本の民話48 長崎の民話』未來社、河野伸枝『長崎の昔ばなし第二集』竹下隆文堂
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